サイトの二周年企画オムニバス、テーマ「記念日」のSSその2。 ダウンロードフリーでした(終了)。 お持ち帰り転載してくださり、イラストつけてくださったサイト様。 ↓せっかくなのでこちらにでかけてください。こちらでも読めます。 「鯖小屋」様 孫策がかわいいです〜。呆れ顔の周瑜が素敵。心の中で「しょうがないな〜」って思ってる声が聞こえてきそうです(笑)。(サイトにリンク。別窓)。 |
朝、清涼な空気を味わいながら、気持ちを引き締めて自分の執務室へ入る。 卓の上へ書簡を広げる。内容を見返して昨日の流れを追い、それから再び続きにとりかかるために、硯で墨を磨る。朝の、何でもない日課だったが。 「公瑾」 その様子を見ながら、なぜだか周瑜にくっついてきて、ちゃっかりと房に腰を落ち着けていた孫策が言った。 とても楽しそうに、それはそれは意気込んだ、弾んだ声で。 「今すごくやりたいことって何かあるか?」 作業のために手元を見ていても、周瑜に向けた目が期待に輝いているのは想像に難くない。 ――そんなご当人には悪いのだけど。 「……はあ?」 孫策の言葉は、仕事をはじめようとしている人に言うようなことでもないだろう。朝一番から何の脈絡もなく言われたことに、作業の手を止めた周瑜の形良い唇から出た声は、気の抜けたものだった。 朝から何を急に言ってるんだこの人は、と思っているのがありありと出た顔だった。 返事をわくわくしながら待っている孫策が、何をしたいのか、どういう反応をしてほしいのか、わけが分からない。またどうせ、新しい遊びでも思いついたんだろうけど。 まったく乗り気でない、ノリの悪い周瑜の声にもめげず、孫策は言い募る。 「食べたいものとかあるか?」 問いかけにも、作業を再開した周瑜は顔を上げずに答える。 「いえ、今は特に」 「なんかしてほしいこととかないのか」 「突然言われても」 「行きたいとことかあるだろ?」 だんだんと押し問答のようになってきていた。次々と言葉を口にする孫策に大して、周瑜はとうとう口をつぐむ。再び顔を上げ、ようやく墨を置いて作業の手を止めて、しげしげと孫策を見た。その様子に、周瑜がやっとまともに答える気になったと思ったのだろう。孫策は更に期待の眼差しで周瑜を見てくるが、そんな彼に対して、逆に問いかける。 「どうしたんですか、急に」 当然、先程から孫策がほしがっている類の答えであるわけがない。孫策はがっくりと肩を落とした。 うな垂れる彼の頭に、周瑜の声が追い討ちをかける。 「何か、頼みごと?」 唐突に、あれしてやろう、これしてやろうと言われたら、嬉しいよりも驚く。驚くと言うよりは、気味が悪い……と言うべきか、一体何なんだと裏を疑ってしまう。そしてやはり、最後にたどり着くのは「ご機嫌取り」だろう。その結果言い出されそうな事など、思いつきすぎて困るくらいだ。 けれども孫策は、顔を上げて周瑜を軽く睨むと、唇をとがらせて頭を横に振った。それなら、と周瑜は続ける。 「誰かに何か言われたのか? わたしが怒ってるとか何とか」 また、誰かにからかわれたのだろう。主人をからかうなど、普通はありえないことだが、孫策と、彼の周りの人間に限って、ないことだとは言えない。彼の家族も然りだ。 「違うよ」 半ばうんざりした声音で、孫策が言う。おかしいなあと、周瑜は顎に手を当てて、考える仕草を見せる。 「何かの記念日だっけ?」 今日は公瑾があれをした日、とか何とか、孫策の中には記憶されているのかもしれない。周瑜は何も思いつかなかったが、ものすごく些細な事でも、孫策の中で重要な出来事であるという風に位置付けられていないとは言い切れない。もしくは、とても重要なことなのに、周瑜が忘れているだけかもしれなかった。それはまずいと思って、少し考えるが。 「なんだよ。何か理由がないと駄目なのかよ」 暗に否定の言葉が返ってくる。その顔はもう完全にむくれて、瞳は明後日の方を向いていた。今日最初に会ったときの上機嫌が、まったく嘘のようだった。 「じゃあどうして急に、わたしのご機嫌取りみたいなことはじめたんだ」 「ご機嫌取りって何だよ」 「違うのか?」 「なんで、なんか理由がないと、なんかしてやりたいって思ったらいけないんだよ。公瑾にはいっつも迷惑かけてるから、何か日頃の礼でもと思っただけなのに」 昨夜か、寝起きにか、唐突に思いたって、思いたったら居ても立ってもいられなくなって、朝っぱらからこんなことを言い出したというところなのだろう。 なんと、単純な人だろう。なんと脳天気で、気楽な人だろう。――分かっていたことだけど。 なんとまっすぐな人だろう。 「唐突でしかも、極端だからでしょう。大抵普通は、理由があるものだよ。下心とも言うけど」 「くだらない」 ふーんだ、とでも言いそうな様子で、顔まで背けて孫策は応えるが。 「前科多数」 つぶやいた周瑜に、すぐに顔を戻す。その顔に追い討ちをかけるように、周瑜は続けた。 「こういう場合は、日頃の行いが結果を生むんだよ。知らなかった?」 「意地悪いよな」 むくれた顔に、いじけた色が加わる。 事実だろ、と更に言おうとしたが、これ以上いじけさせるのもどうかと、思いとどまった。 折角、周瑜のために何かしてくれると言うのだから。それも、何でもしてくれるというのだから。くすくすと笑いを零しながら、別のことを口にした。 「じゃあとりあえず、誰かさんのおかげでとっても疲れてるわたしの肩でも揉んでもらおうかな。将軍様?」 言われた顔は決して、分かってくれて嬉しい、というものではなかったけれども。 終
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さすがに書きやすかった。気楽に書けました。 一応テンポに気を使って書いたんですが、分かりますでしょうか…。 前半は孫策のペースで質問攻め、後半は逆に周瑜のペースで。 そしてわざとタイトルをアホっぽくしてみた。最近のタイトルのつけ方って、ちょっとそっけないなあと思って。 |
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