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 週末は、少し気合を入れてメイクをして、慎重に服を選んで、一人の部屋を後にする。

 ちょっと奮発した豪華なランチ。ウインドウショッピングをしてから、午後にはかわいいケーキを食べて、砂糖をたっぷり入れた甘い紅茶を飲んで。
 それからちょっとだけ、お酒を飲む。お気に入りの隠家のようなカフェは、シンプルだけど季節の花をあしらったかわいいケーキを毎月作っている。そしていつも季節に合わせて、自家製の果実酒をサービスで出してくれるのだ。だからあたしたちは、昼間っからお酒を飲む。フルーツの香りが、ふんわりした暖かさと一緒に体の中に満ちていくのを感じながら、少し上機嫌になって。
 綺麗にメイクして、おしゃれして、上等の自分と、季節のケーキ。季節のお酒。おいしい食べ物。
 そして、大切な友達。これ以上のものはない。
「で、どうだったの」
 向かいにあるわくわくとした顔が、やや小鼻をふくらませながら聞いてくる。
 あたしは、生クリームのかたまりを口の中に放り込んでから、うーん、と唸ってみせた。
「だめだったー。予定があるんだって」
 聞いた途端、なーんだあー、と涼子はあからさまにガッカリした。まるで自分のことのように肩を落とす。ケーキの上に乗っている、アジサイの砂糖菓子をぺろりと一口で平らげて、思い出したように言った。
「彼女いるって?」
「わかんなーい」
「聞いてないの?」
「聞けないよー」
 もー、と涼子は、今度は頬を膨らませたけど。
「んーでもちょっと気になってたくらいだしなー」
「そこで弱気になるなっ。そこがあたしたちのいけないところだっ」
 やっぱり涼子はそう言うけど、あたしは、「んー」と返事にならない返事をした。とりあえず、フォークでチョコムースを掬い取って、また口に放り込む。うーん、身に沁みわたる甘さ。
 そんなあたしを見ていた涼子は、すもも酒を一口飲んで勢いつけてから、まあそんなことで勢いつけられるなんてお手軽で、ポーズだけだけど、鼻息荒く声を大きくした。
「よし、小心者の沙紀が自分から誘ったというところだけでも評価してやろうっ」
「でしょう! でしょうでしょう。えらいでしょう!」
 あたしも乗って、ぐいーっとすもも酒を飲む。こうなるともう酔っ払いのおじさんと同じだ。
 やっぱこれも、ポーズだけだけど。要はノリだ。勢いだ。テンションだ!
「彼氏なんていなくたってー」
「ひとりだってしあわせになってやるー」
「こら、寂しいこと言うなー」
「ごめんごめん」
 ずっと一緒にいるもんねー。と笑う。にっこりというよりは、にやりと笑う。お互いに。おもしろがりながら牽制するのだ。先に結婚したら許さないよ? と。
 チェシャ猫笑いで顔をつきあわせて、すぐふきだしてしまった。ふたりでお腹を抱えて笑いながら、二個目のケーキをつつく。
 もちろん、抱きしめてくれる腕があればもっとしあわせ。だけど、なくちゃならないってことはない。だって、くだらないグチを言い合って、くだらないことで笑いあって、そして一緒にケーキを食べてくれる友達がいる。
 女の子はしたたかなのだ。
 もし結婚したって、絶対に今の生活を続けようね、といつもの約束をする。結婚する前に旦那さんになる人にも約束させるからね、と。絶対、友達と出掛ける時間だけは譲れない。
 上等の自分と上等の時間。最近は友達が助けを求めてるのも無視して男のところに走る子が多いとか聞くけど、あたしの場合これが全部自分のためだってところが、負けなのかもしれないけど。でも、それが好きだから、それでいい。
 女の子のしあわせはお手軽なのだ。
 だけど、ささやかなことでしあわせになれるのって、とっても大事なこと、だよね。


終わり





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お題バトル2回目その1。
テーマ「終わり」
お題「仔猫」「お守り」「抱擁」「お砂糖」「あなたのそば」「あかり」「花」「お金」

「抱擁」「お砂糖」「あなたのそば」「花」使用。お金は微妙(笑)

ちなみに制限時間2時間(……で2作書いたうち1つ)。原稿用紙5枚



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